「Kさん、週末はいいことあったのですね。山に登れたのですか」
Bar B1(バー ビーワン)のカウンターに座ると、無口なマスターが珍し
く先に話かけた。
「ツバメが帰ってきたからね」
両肘をカウンターに置いて、前かがみになって答えた。いつものマッカラン
のボトルを手に取りながら、マスターが振り向いて聞いた。
「ツバメって?」
「山に登る前に、夜が明けるまでの仮眠に利用する無人駅があってね。その
構内の大きな時計の上に2羽が向かい合って眠っているのを見つけたのさ。
昨年と違うツバメかもしれないけど、2羽が向かい合う姿がとてもいいよ。寝袋か
ら顔を出して長い旅をしてきた2羽を眺めながら眠りにつくのは最高だった。今の
季節にぴったりだと思うよ」
「なんだか、小さな幸せを見つけたようですね」
と、言ってマッカランのボトルをカウンターに置きかけたマスターに注文した。
「マスター、悪いけど。ベイリーズを同量のミルクで割ってくれませんか」
「また、十二指腸ですか・・・。暫くお酒をやめた方がいいと思いますよ」
ボトルをモルトの棚に戻して、リキュールの棚からベイリーズを取り出してから、
少なめのベイリーズに多めのミルクを足して、ロックグラスを自分の前に置いた。
「とりあえず、長い旅を終えたツバメのカップルと中間管理職の職業病である十
二指腸炎に乾杯だ」
口の中に広がる甘いベイリーズがツバメのカップルによく似合う味だと思った・・・
追伸 ヘッダーの摘みたての四葉は、ただいま31枚です。
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