森の王様

 夏になると思い出す。

それは、私が子供の頃、そう、もう何十年も前に父の育った山の中にある
田舎のおじいちゃんとおばあちゃんの家に夏休みの終わりに家族で遊びに
行った時のことです。

田舎の家は、バスの終点から歩いて30分ぐらいかかりました。黒い森に
囲まれた藁葺きの大きな家でした。荷物をもってバスの終点から歩くと、滝
から流れる水の音がすぐ近くに聞こえてきました。田んぼの真ん中を通る道
なので、青臭い稲と泥の香りが気持ちよく思いました。歩いてきた道を振り
返ると青い空に真っ白な雲が浮かんで僕たちの後ろを追いかけてきているよ
うでした。

おじいちゃんとおばあちゃんの家に着くと、すぐにパパとママと僕の3人で
仏壇のあるところで線香に火をつけて手を合わせてから、おじいちゃんとお
ばあちゃんにあいさつをしました。

「遠くからよく帰ってきたね。今年は、もう帰ってこないかと思っていたよ。
さあ、滝から流れてくる水で冷やしておいたスイカをお食べ。じいちゃんは、
朝からソワソワして裏の丘に登って、バス停を何度も何度も眺めていたよ」


「ばあちゃん。お前だって『今日は、何日だ。何曜日だ』と何回も聞いていた
じゃないか。しかし3人でよく帰って来てくれた」
 と、言って、おじいちゃんは、顔のしわにさらにしわを重ねて嬉しそうに微笑
みました。

その日の夜は、パパとママは夜遅くまでおじいちゃんとおばあちゃんとお話を
していました。子供だった僕は、1人で皆より早く寝かされました。布団は、
小さい黄色い常夜灯がついた薄暗い仏壇のある広い部屋の真ん中にしいてあり
ました。部屋の中は、3人で立てた線香の香りが1杯になっていました。

仏壇の横の床の間には怖い鬼のような人が立っている絵が掛けられていました。
おじいちゃんに聞いたら、悪いことをしょうとする人が、この顔をみて驚いて
家に近づかないようにするもので、家を守ってくれる警備員みたいなものだと
笑いながら教えてくれました。

その怖い警備員の他には、少し笑っているおじいちゃんのお父さんとお母さん、
そしてそのまたお父さんとお母さんの白黒の写真が仏壇の上に掛けられて、僕
を見ていました。

暫くの間、仏壇の方を頭にしている枕の上で腕組みをして、僕は怖い警備員と優
しそうな4人の白黒の写真を交互に眺めていました。『ブ~ン・・・ブ~ン』と、
蚊が飛んでいる音が近くで聞こえました。そして時よりおじいちゃんやおばあち
ゃんの笑い声がママとパパの笑い声に混じって遠くで聞こえていましたが、だん
だんと眠くなり、蚊の音もママとパパの声も聞こえなくなりました。そして夢を
見ていたときに、

『ムニャムニャ・・ハクション』
と、大きな声が聞こえてきたので、驚いて僕は目を覚ましました。頭の方にある
電気スタンドに手を伸ばして、スイッチを押しました。少し明るくなったので、
部屋をゆっくりと一周見渡しました。しかし仏壇も怖い警備員もおばあちゃん達
の写真もそのままでした。

『誰もいないのに確かにくしゃみを聞いたのになぁ~。夢なのかな』
 もう一度、電気スタンドの明かりを小さくて布団の中でじっとしていると、

『ハァ~クション。ハクション』
 今度は、夢を見ていないし、前よりもはっきりと大きく2回聞こえました。

「だれ?だれかいるの?」
薄暗い部屋の中で声を出して聞いてみましたが、何も聞こえませんでした。

「どうして答えないの?」
 今度は、ちゃんと起きて部屋の電気をつけました。急に明るくなって部屋が眩
しく見えました。そして仏壇の奥や怖い警備員の絵の裏に近づいて見ましたが、
だれもいません。ところが突然に声が聞こえました。

つづく

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